|
今朝、間違いなくこの宝箱に彼を戻し「行ってきます」「行ってらっしゃい」と、言葉を交わした。 だが、今この箱には誰もいない。 ロロもだ。 どうして!? 僕は慌てて部屋を見回した。 玄関に鍵は掛かっていた。 窓もだ。 携帯はテーブルの上に置きっぱなしになっていて、念のため引き出しを調べたが、現金も通帳も全てそこにあった。 物取ではない。 僕は震える手で再び宝箱を開けた。 やはりいない。 ロロがどうにかして箱を開けて、ルルーシュを連れだした? そう思い、部屋の中を探すがやはりいない。 連れて行かれた? どうにかして部屋の鍵を開け、彼を誘拐し、再び閉めたのか。 どうしよう。 何処を探せばいいんだ。 混乱する頭で、僕は携帯と財布をポケットに突っ込み立ちあがった。 まだ近くにいるかもしれない。 探さなければ。 急いで玄関へ向かった時、カチャリと鍵が開く音が聞こえた。 扉の前で思わず立ち止まる。 間違いなく、この部屋の鍵が動き、開いた。 ドアノブが回され、扉が開かれる。 ルルーシュを誘拐した犯人が戻ってきたんだ。 僕は咄嗟に判断し、扉を勢い良く開けると、目の前にいる人物の胸倉を掴み上げた。 そして問いただそうと思い口を開いたのだが。 「・・・え?」 思わず声が裏返った。 目の前で僕に胸倉を掴みあげたられ、驚いたように目を見開いているのは、良く知った人物で。 それはあの宝箱の中の住人、ルルーシュだった。 今まで画面越しでしか確認できなかった長い睫毛をぱちぱちと瞬かせ、ルルーシュは首を傾げた。 「ああ、もう帰ってたのか、早かったな。あと10分は戻らないと思ったんだが」 何事も無かったかのように、何かあったのか?という口調で尋ねられた。 「え?あ、うん。走って来たから早かったんだよ」 「そうか。所でいい加減離してくれないか?苦しいんだが」 ルルーシュは苦笑しながら、胸倉を掴んでいる僕の手に触れた。 言われて、未だに彼の胸倉を掴み上げていた事に気付き、僕は慌てて手を離した。 「ご、ごめん!」 「いや、いい」 そう言うと、彼は乱れた衣服を直した。 よく見るとその衣服にも見おぼえがあった。 僕の服だ。 「入ってもいいか?」 「え?もちろん!」 寧ろ早く入って! 僕は慌てて玄関を塞いでいた体を避けた。 僕と変わらない身長のルルーシュが、その横を通り過ぎる。 信じられないという面持ちでその姿を目で追っていると、彼の後ろを当たり前のような顔をしてもう一人、通り過ぎた。 「って、君!?」 それは新緑の髪の少女だった。 「煩いぞ。まずはドアを閉めろ、ど阿呆が」 彼女は僕の声に振り返ると、不愉快そうに眉を寄せ、口汚く文句を言うので、僕も思わず眉を寄せた後、扉を閉じてしっかりと施錠した。 「スザク、昼はまだだよな?」 部屋に上がったルルーシュがこちらを見て尋ねた。 「え?あ、うん。まだ・・・あ!いま買ってくるよ」 「いや、まだならいいんだ。材料を買ってきた」 見ると、ルルーシュと少女の両手には買い物袋がぶら下がっていた。 袋からは野菜だけではなく、フライパンも覗いている。 「え?君が作るの?」 「ああ」 スザクが慌てた様子で聞いたので、ルルーシュは何か問題があるのかと言いたげに首を傾げた。 「ルルーシュは料理が上手い。まあ、大人しく座って待ってろ」 「っと、その前に、ロロ。家に着いたぞ」 ルルーシュがそう声をかけると、彼の胸ポケットからもぞもぞと子リスが顔を出した。 「ロロも一緒だったんだ」 「連れて行けと煩くてな。ああ、ロロが居なくて心配したか?」 「って、君が居なくて心配したんだよ!一体何がどうなってるの!?どうして君大きいのさ!?」 真っ先に聞かなければならない問題を思い出し、スザクは声を荒げた。 「大きいというか、これが本来の大きさだからな」 ああ、勝手にお前の服を借りたからな。 ルルーシュは、苦笑しながらそう答え、買ってきたのだろうエプロンを身に付けた。 「え?」 本来の? 「君、小人じゃなかったの?」 「お前はよくそう言っていたが、俺は一度も肯定した覚えは無いな。C.C.、材料を出してくれ」 「やれやれ、相変わらず人使いが荒いな」 C.C.と呼ばれた少女は文句を言いながらもどこか嬉しそうだった。 「なんだ、お前は食わないのか?」 「嫌な男だよお前は。食べないなどという選択肢、私には無い」 しかもお前の手料理だぞ。 ならば文句を言わずに手伝え。 そんなやり取りを茫然と見つめていると、どうやら買ったものを出し終えたらしい少女が戻ってきて、テーブルの前に座った。 「やはりお前だったか。覚えているか、私を。あの大学で箱を引き取りに行った時に一度会っただろう?」 「覚えてるよ。ルルーシュを探してたよね」 忘れるはずがない。 だからずっとこの鮮やかな緑色には注意していたんだ。 「お前がさっさとルルーシュと引き合わせれば、もっと早く元に戻せたんだ」 「って、ルルーシュ、彼女誰!?」 文句を並び立てる少女はとりあえず放置し、僕はキッチンで小気味よい音を立てながら食材を刻んでいるルルーシュに声をかけた。 「彼女はC.C.だ」 ルルーシュはこちらに振り返ること無く答えた。 それ以上の情報を口にすること無く着々と下ごしらえを続けていく。 「そうじゃなくて君と彼女は」 その背中に声をかけた時、目の前に座っていたC.C.という変わった名前の少女は、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。 「ルルーシュと私は将来を誓い合った仲だ」 「は!?」 彼女の言葉に、僕は思わず大きな声を上げた。 「お前はまた・・・彼女は俺の共犯者だ。確かに老後の世話を見る約束はしているな」 「老後と言ったか。それはさて、私がされる側か、する側か、どちらだろうな」 くすくすと彼女は魔女の笑みを浮かべた。 老後の世話を互いにする。 それは共犯者というよりも彼女の言うように将来を・・・え?つまり婚約者!? スザクは、困惑した表情で二人を見た。 「C.C.」 苛立ち混じりの若干低くなった声で、ルルーシュは彼女の名前を呼んだ。 ルルーシュの機嫌を損ねたら不味いと判断したのか、C.C.は肩を竦めながらスザクを見た。 「早い話が、ルルーシュの数少ない。そう、数少ない貴重な、仲間だ」 「少ないを強調する意味は何だC.C.」 話しながらも調理する手は休めない。 じゅうじゅうとフライパンからいい香りが漂ってきた。 「気にするな。ただの気分だ」 にやにやと笑いながら、C.C.は買ってきたペットボトルを開け、紅茶を飲んだ。 「君の仲間?じゃあ、君を殺そうとした人じゃないのか」 「違うな。むしろ私はルルーシュが産まれた時から守る側だ」 「産まれた時からって、君、僕たちより若いよね?」 目の前の少女はどう見ても15.6歳。ルルーシュの方が年上に見える。 「スザク。俺は小人が存在しているかどうかは知らない。だが、魔女が存在している事は知っている」 「え?」 「C.C.は魔女だ。見た目に騙されるな。それでも一応数百年生きているぞ」 初めてあった頃から姿は変わっていないから、本物だ。 「ええええええ!?」 にやにやと笑うC.C.を見て、僕は空いた口が塞がらなくなった。 |